太陽光発電の安全性向上に向けて、架台の設計に関する「地上設置型太陽光発電システムの設計ガイドライン2019年版」が2019年7月9日に公開された。設計ガイドラインの策定はNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)のプロジェクトの一環として2016年にスタートし、太陽光発電協会と奥地建産が受託事業者として参画するかたちで、翌年「地上設置型太陽光発電システムの設計ガイドライン2017年版」としてまとめられた。今回発表された2019年版はこれを改訂したもので、架台や基礎の強度、腐食進行などに関する実証試験結果を反映させるとともに、太陽光発電の安全性に対する社会的関心の高まりを受け、2017年版にはなかった要素も多数盛り込まれることとなった。
はじめに高森氏は、設計ガイドラインにおける構造設計は「許容応力度設計」に基づいているとして、十分な余裕をもって設計することが重要であると話す。許容応力度設計とは、設計荷重レベルの荷重を受けても元に戻ることを基本とするもので、部材が破壊する荷重(最大荷重)を基にするものではない。さらに、50年に1度程度のまれに起こる大規模な地震・暴風・大雪を想定して、許容応力度設計を行わなければならず「これまで被害がなかったから大丈夫」などという発想ではいけないと説く。 「PV2019太陽光発電フォーラム」(主催:太陽光発電協会主催、会場:パシフィコ横浜)において、設計ガイドライン改訂作業の事務局を務めた構造耐力評価機構の理事・高森浩治氏が、2019年版について解説した。2019年版は8章からなり、主な改訂内容は「5章 使用材料」の新設、および「6章 架台の設計」「7章 基礎の設計」「8章 腐食防食」の全面的な更新だ。全体のボリュームは、2017年版の1.5倍にも及ぶという。また、構造設計に有用な情報提供を目的に、「技術資料」や「設計例」の充実も図られた。
新設された章である「使用材料」においては、従来前提とされていた鋼材に加え、アルミニウム合金材やコンクリートについても記された。アルミニウム合金材に関しては、「使用される目的・部位・環境条件・耐久性等を考慮して適切に選定する」とともに、材質・形状・寸法は原則として「アルミニウム建築 構造設計基準・同解説」(アルミニウム建築構造協議会)に従うことが求められている。ただし、海外からの輸入材は、この基準に合わない場合もあるので、強度特性や耐久性を十分に確認した上で使用しなければならないという。
続く「架台の設計」では、安定構造を実現するためのポイントを整理する。基礎については、柱脚部に作用する水平力によって杭頭部に変位が生じ、この変位により上部の架台やアレイが損傷するケースがあることを指摘。架台の実情を反映したモデルを使って構造解析を行い、各部材および接合部の剛性を適切に評価することが重要であり、特に杭基礎の場合は杭の変位に考慮した上部構造のモデル化を行うことが推奨される。
アルミニウム合金製架台においては、「構造耐力上の主要な部分に用いるアルミの板圧は1mm以上」とされる。熱処理によって強度を高めたアルミニウム合金の場合は、「脆(ぜい)性的に破壊しやすくなる傾向」にあるので、部材断面に余裕を持たせることが望ましいとのこと。また、溶接をする場合や「鋼材に比べて支圧強度が低い」場合は、「母材と溶接影響部では許容応力度が異なる」ことに留意する必要もある。
「基礎の設計」では、基礎のタイプを直接基礎(独立基礎・連続基礎・べた基礎・地盤改良工法)、杭基礎(支持杭・摩擦杭・杭状補強)に分類し、それぞれに指針を示す。2019年版では、新たに「杭基礎設計における水平抵抗力および水平変位」などについても詳述されている。例えば、「地表面変位が0.1D以上あるいは1cm以上変位すると予想される場合は、水平変位が予想される変位を超えるまで載荷することが望ましい。この時、短期荷重条件による水平変位によって、架台部材、接合部、杭頭接合部などが、許容応力度以下であること、杭体は腐食しろを除いた有効断面で許容応力度以下であることを確認する」ことが必要であるとする。また、「強風時の負圧による引き抜き力に特に留意」して設計を行わなければならないと指摘する。
強風対策は、設計ガイドラインが一貫して重視しているテーマの一つだが、2019年版では「傾斜地での風速増加」についても注意を促す。山の斜面など傾斜地に設置された太陽光発電設備において、斜面の途中と登りきったところでは受ける風圧が変わってくる。風が下から吹き上がってくるときに速度が増し、斜面の上に行くほど風圧もアップしているのだ。高森氏は、「例えば、15度ほどの傾斜の場合、風速は2割くらい早くなります。風速が2割増加するということは、荷重はその2乗に比例するので、4割増加することになります。設計上想定していた荷重の1.4倍がかかるわけですから、斜面を登り切ったところで被害が起きるケースも出ている」と話す。
「一般には、風圧荷重が大きい地域では架台の傾斜角を低くする、つまり水平に近くしてやると荷重が下がる。逆に、雪の多い地域では架台の傾斜角を大きくすることで、積雪を減らし、荷重を下げることができる。こうした基本を踏まえつつ、それぞれの設置環境に合わせた設計をしていくことが大切なのです」(高森氏)
「腐食防食」に関しては、架台に雨がかからないことから生じる悪影響に注意を促す。架台は、太陽光パネルが屋根となるため直接雨に打たれることは少ないが、雨がかからないことで、かえって腐食が進んでしまうこともあるという。通常、雨は材料表面をぬらし、腐食を促進する(均一腐食)が、環境によっては大気汚染物質(飛来塩分や工場の排ガスなど)を洗い流し、腐食を抑制する効果もある。同様に、雨がかからないことで、大気汚染物質が架台表面に蓄積し、腐食が促進されてしまうことも考えられる。暴露試験の結果からもこのことは明らかであり、腐食を抑制するためには、「周辺環境を考慮した適切な材料を選び、有効な防食処理を施して使用することが必要である」と結論づける。
腐食対策は、メンテナンスを考えることに直結する。「課題は長期耐久性です。設計のときにしっかり考えておかないと、後で大変なことになりかねません。もし、杭が土中で想定以上に錆(さ)びたら、メンテナンスもできなくなってしまいます」(高森氏)
法の基準はあまでも最低基準にすぎない、と高森氏は続ける。「時間が経てば性能は下がっていきますから、はじめに法の基準より厳しく設計しておくのは当然のことなのです。経年劣化が進み、点検や補修をすることで、また性能を上げていく。それでも性能が保てなくなったら、元の状態に戻るよう修繕(しゅうぜん)する。事業継続の途中で法改正があり、耐荷重などの要求性能が上がったとしたら、さらに改修をして元の状態以上に性能を上げていく。それが理想です。しかし、なかなかこういう状況にはなっておらず、経年劣化のことすら考えていないケースも多いでしょう。設計に携わる方々には、この設計ガイドラインをそれぞれの実情にあわせて有効に活用していただければと思います」(同氏)
今後は、構造安全性の研究をさらに進めて、営農型太陽光発電(ソーラーシェアリング)や水上設置型太陽光発電についても、盛り込んでいきたいとのこと。太陽光発電の長期耐久性を高め、より広く社会に受け入れられる存在にしていくためにも、「設計ガイドライン」の役割は重要度を増すばかりだ。
造成、排水計画【追加】
条例等による環境影響評価の要求確認【追加】
地盤調査ポイント数の目安【変更】
傾斜地での風速増加の考慮【追加】
積雪後の降雨による積雪荷重【追加】
使用材料の規定【追加】
架台設計【変更・追加】
応力算定方法
部材設計の考慮事項
許容応力度算定
接合部設計での考慮事項
部材応力度の検定方法
基礎の設計【変更・追加】
杭基礎設計における水平抵抗力および水平変位の考慮
杭状補強
腐食・防食【変更・追加】
腐食形態と防食方針
大気中(架台)の腐食と防食
地中部(鋼杭)の腐食と防食
管理・点検・メンテナンス
風圧荷重,積雪荷重関連【追加】
杭基礎上に設置される架台のモデル化【追加】
各種実証試験(架台・太陽電池モジュール・接合部・杭基礎・金属腐食)の結果【追加】
鋼製架台の設計例【一部修正・変更】
アルミニウム合金製架台の設計例【追加】
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