今冬も日本各地で大雪や暴風雪に見舞われた。気象庁によると、降雪量は、日本海側を中心に平年値を上回った地点が多く、特に西日本では平年値の 2 倍を超えたところがあった。全国 331 地点中 12 地点で年最深積雪の記録を更新した。
特に2021年12月下旬から2022年1月上旬にかけて日本海側を中心に大雪となり、滋賀県彦根市や米原市では 48 時間の降雪量が約80cm となるなど記録的な大雪となった。1月中旬には北日本を中心に大雪や暴風雪となり、北海道や東北で交通機関に影響が及んだ。2月には、道内では比較的、雪が少ない苫小牧市や千歳市でも記録的な積雪となった。
太陽光発電所への積雪の場合、晴天を挟んで少しずつ降るのであれば、太陽光パネルから滑り落ちていくことも期待できる。一方、短時間で大量に降ると、解け落ちる間もなく太陽光パネルに大量の雪が積もってしまう。そうなると雪の重さに基礎や架台が耐え切れずに損壊に至るケースがある。
観測史上最大の積雪となった米原市では、高圧配電線に連系する太陽光発電所の一部が倒壊した。もともと滋賀県北部は、日本海側の気候に近く、積雪地帯として知られている。そのため、倒壊した発電所も、積雪に配慮しており、太陽光パネル横置き・4段のアレイ(パネルの設置単位)を25度に傾け、地面とアレイ低部の設置高は1m以上確保していた。
加えて、パネルを取り付ける斜材(縦桟・垂木)を1枚につき4本にして8か所で固定するなど、パネル外れの防止や、雪荷重でアレイが屈曲しない構造にしていた。支柱には梁(横桟)とのブレース(筋交)や支柱同士のつなぎ材もあった。
それでも、倒壊してしまったのは、杭基礎と架台を固定する接合金具が雪荷重に耐えられず、架台の支柱が基礎から外れたからだ。パネル4段組みのアレイ自体は、4本の斜材の効果で大きな損傷なく、そのまま地面に落下した格好になった(図1)(図2)。
(出所:日経BP)
これと近いパターンで倒壊したのが、長野県平谷村の高圧連系サイトだ。こちらもパネル横置き・4段のアレイだが、設置角は15度と比較的浅く、斜材はパネル両端2本で1枚を4カ所で固定している。雪国以外では一般的な架台設計といえる。
米原市の倒壊サイトと同様に基礎と架台の接合部が外れて倒れ、4段組みアレイが地面に落下したが、その過程で多くのパネルが斜材から外れたり、大きくたわんでカバーガラスが割れたりしている(図3)(図4)。
(出所:日経BP)
米原市と平谷村の倒壊サイトでは、いずれもアルミニウム製架台と鋼製の杭基礎をアルミ製の接合部材で固定していた。外れた接合部を見ると、フランジ(円形の取付部)にT字型の接合金具をボルトで固定していた。接合が外れたのは、金具が破断してちぎれたり、ボルト孔(穴)が伸びて広がってしまい、ボルトが抜けていたりしたケースが見られた(図5)(図6)
図5●倒壊した米原市サイトの接合部
一方、基礎と架台の接合部は外れなかったものの、杭基礎が傾いたり、杭自体が折れたりしたサイトもあった。それに伴って架台の骨組みである斜材と梁が大きく屈曲したり、破断したりした。雪の重みで、全体的に押し潰されたように損壊している。
群馬県片品村にある低圧連系サイトは、パネル横置き・4段のアレイを25度で設置し、支柱の間には、縦・横方向にブレースを入れていた。それでも全体的に損壊が激しく、ほぼ全パネルが外れている。
このサイトは、3つのアレイ架台が並んでいるが、最前列はほぼ全壊、真ん中と最後列はは半壊で留まっている。半壊の状況では、アレイ前側の軒先(斜材の先端)が雪による沈降荷重で下側に折れ曲がっているが、後ろの支柱は垂直を維持し、それらを渡す梁はそれほど曲がっていない。全壊の最前列は、軒先の梁は地面に接するまで屈曲し、それに引っ張られる形で、後ろの支柱も傾き、梁もたわんだように大きく曲がっている(図7)(図8)。
図8●倒壊した片品村のサイト。ほぼ全体が雪で損壊した
片品村では、このほか、単管パイプ製の架台を採用していた低圧連系発電所が大きく損壊した。このサイトはパネル1~2段のアレイを設置角45度で設置しているが、最後列は、パネル横置き・7段のアレイを地面とほぼ平行に6列設置していた。損壊したのはそのうちの1列で、単管パイプの支柱と梁とのジョイント金具が外れてアレイが屈曲して地面まで落下、パネルに支柱が突き刺さった(図9)。
図9●片品村では、単管パイプ架台による低圧連系サイトも損壊した
(出所:日経BP)
山形県飯豊町の高圧連系サイトでは、雪荷重によるアレイ軒先の屈曲とともに、後ろの杭基礎が後方に傾き、支柱との接合部が「く」の字になり、“尻もち”を着いたようになっている。このサイトではパネル縦置き・4段のアレイを30度で設置しているため、後ろの支柱は3m程度まで高い。加えて、後方支柱は、斜材中央との間に渡したブレースの接合点にもなっているため、アレイにかかった沈降荷重がブレースを介して杭基礎を押したことで後方に傾いた思われる。また、パネルの固定方法が、押さえ金具による左右フレームの2カ所留めのため、雪荷重で容易に外れてしまった(図10)(図11)。
図10●大規模に損壊した山形県飯豊町のサイト
(出所:日経BP)
飯豊町のサイトと同様の後方基礎の「尻もち」は、北海道千歳市の低圧分割サイトでも起こった。パネル・横置き4段、設置角30度のアレイが真ん中で落ち込み、「く」の字型に屈曲した。ただ、飯豊町サイトと違いは、パネルをアレイ裏側で、1枚当たり4カ所をねじ止めで固定していたため、パネル外れはほとんどなかった(図12)(図13)。
図12●大規模に損壊した北海道千歳市のサイト
(出所:日経BP)
図13●損壊した千歳市のサイト。アレイが「く」の字に屈曲した
(出所:日経BP)
飯豊町と千歳市のサイトで、杭基礎が折れ曲がってしまったのは、杭の突き出し高さが50cm程度と大きかったことも要因の1つとみられる。雪荷重を受けたブレースが地面から50cm程度上の接合部を押すため、梃の原理で支点にかかる力が増し、地際から曲がったり、地盤が耐えられず杭基礎が傾いたりした。杭基礎の突き出しを高くしたのは、雪の落下を想定して設置高を大きくとるためと見られるが、こうした雪国仕様が、雪荷重への対応という点ではマイナスに働いてしまった可能性もある(図14)(図15)。
(出所:日経BP)
図15●損壊した北海道千歳市のサイト。杭基礎が折れ曲がった
(出所:日経BP)
基礎や支柱の損傷にまで至らなかったものの、アレイを取り付ける斜材や梁が雪荷重で曲がってしまったサイトもある。米原市同様、記録的な積雪となった彦根市では、高圧配電線に連系する約2MWのメガソーラー(大規模太陽光発電所)で、ほぼすべての架台でパネルを取り付けた斜材が雪荷重で真ん中から屈曲し、中には破断した。
この発電所は、パネル横置き・4段のアレイを約10度の勾配で設置し、斜材を支えるブレースは後方支柱との1本だった。このアレイのほとんどが、パネル4段アレイのほぼ真ん中、ブレースの接合点付近から、上に開いた「く」の字型に折れ曲がり、破断しているケースも多い。これに伴い、押さえ金具で止めてたパネルの多くが外れた。
比較的、設置角が浅く、斜材を下から支えるブレースが1本だけだったため、雪の重みで斜材が真ん中から折れ曲がってしまったと見られる(図16)(図17)(図18)。
(出所:日経BP)
図17●損壊した彦根市の高圧サイト。パネルの多くが外れた
(出所:日経BP)
図18●彦根市の損壊サイト。斜材が真ん中で屈曲したり、破断したりした
(出所:日経BP)
これと同じパターンで斜材が屈曲したのが米原市の高圧連系サイトで、やはりパネル横置き・4段のアレイを約10度の勾配で設置している。ただ、このサイトでは、斜材の屈曲が起きたのは、山の斜面に近いエリアに限られており、山側が雪の吹き溜まりとなって積雪量が多かった可能性もある(図19)(図20)。
図19●一部の斜材が屈曲した滋賀県米原市のサイト
(出所:日経BP)
(出所:日経BP)
一方、斜材先端の軒先が雪の沈降荷重で折れたため、梁も大きく変形してしまったケースが、山形市と北海道木古内町のサイトだ。
山形市のサイトは、パネル横置き・4段のアレイを約25度と、比較的大きな設置角で取り付けていたが、雪の沈降荷重で軒先の一部が屈曲し、損傷が梁にまで及び、押さえ金具で固定していたパネルの多くが外れた。この発電所では3月中旬、損壊した設備から煙が出ているとの通報が消防署にあり、事業者が応急で事故対応したとの報道もあった(図21)(図22)。
(出所:日経BP)
北海道木古内町では、パネル縦置き・3段のアレイを約30度で設置していたサイトが損壊した。設置角が大きいため、パネルに積もった雪は比較的、早く滑り落ちたと思われるが、落下した雪がアレイ上の雪とつながって下段パネルに沈降荷重がかかり、アレイ軒先の斜材が屈曲しつつ、パネルが外れ、部分的に梁も大きく変形した(図23)(図24)。
(出所:日経BP)
図24●木古内町の損壊サイト。一部のアレイは全体が崩壊
(出所:日経BP)
また、豪雪地域である福島県只見町では、今冬の最深積雪が3mを超え、低圧連系サイトが雪に覆われた。パネル横置き・2段のアレイのうち、上の段を支える斜材が後方側に折れ曲がり、それを支える梁が大きく曲がっている。
アレイ全体が雪で覆われてしまい、それが融ける段階で、上段のパネルが後ろ側に引っ張られた可能性がある(図25)(図26)。
(出所:日経BP)
(出所:日経BP)
アレイ軒先の斜材が雪による沈降荷重で折れ曲がる損傷は、雪害でよく見られるケースで、福島県喜多方市の低圧連系サイトでは、パネル横置き・4段のアレイで最下段のパネルがお辞儀をしたように屈曲した。この場合、押さえ金具でパネルを固定していると、外れやすくなる。千歳市の低圧分割サイトで、大規模に斜材が曲がったにも関わらず、パネルがほとんど外れなかったのは、パネルフレームをネジ止めしているからだ(図27)(図28)。
(出所:日経BP)
図28●北海道千歳市の損壊サイト。ネジ止めのためここまで屈曲してもパネルは外れていない
(出所:日経BP)
パネルの固定方法には、パネルのフレームを上から金具で押さえつける「支圧接合」による固定と、フレームと架台を直接、ねじで止める「摩擦接合」による方法がある。押さえ金具は、パネル2枚を同時に固定でき、架台上側から作業できるためコストが安く、多くのサイトで採用されている。ただ、積雪時のパネル外れが起きやすいことが分かっている。
群馬県片品村の低圧連系サイトでも、押さえ金具でパネルを固定していたため、斜材先端の屈曲に伴いパネルが外れた。一方、彦根市の高圧連系サイトでは、アレイの一部に雪荷重によると思われる下側への屈曲が見られるものの、パネルをネジで止めていることもあり、パネル外れはまったく見られない(図29)(図30)。
(出所:日経BP)
図30●滋賀県彦根市のサイト。ネジ止めの効果もありパネル外れは見られない
(出所:日経BP)
また、会津若松市の高圧連系サイトでは、アレイ中段に隙間を空けることで、雪を滑り落とし、軒先にかかる雪荷重を軽減させる設計を採用し、ある程度、効果を上げている。パネル横置き・4段のアレイだが、2段と2段の間にすき間を設けた。ただ、この冬の大雪では、それでも一部のアレイで軒先の屈曲が見られた(図31)(図32)。
図31●会津若松市の高圧連系サイト。一部の斜材軒先が屈曲
(出所:日経BP)
図32●会津若松市の高圧連系サイト。アレイに隙間を空けて雪を落とす設計を採用
一方で、斜材や梁にまったく損傷が見れないケースでも、太陽光パネルが外れたり、カバーガラスが割れたりするなど、損傷が見られるケースもある。
最深積雪3mを記録した福島県只見町では複数の低圧連系サイトが雪に埋もれた。そのうちの1つは、架台自体には大きな損傷はみられないものの、パネルのフレームが外れかかったり、カバーガラスが割れたりしている。架台全体を覆った雪が解けていく過程で、アレイ下の雪とつながったパネル上の雪が下側に引っ張られ、パネルにかかる荷重が大きくなった可能性がある(図33)(図34)(図35)。
(出所:日経BP)
(出所:日経BP)
図35●只見町にある低圧連系サイトの1つでは、カバーガラスの割れなどパネルの多くが損傷した
福島県天栄村では、高圧連系サイトと低圧連系サイトで、雪の重みで太陽光パネルのカバーガラスが割れた。高圧連系サイトでは、パネル横置き・4段のアレイを単管パイプ製の架台に取り付けている。架台には損傷は見られないものの、複数の最下段パネルでカバーガラスが割れて窪んだようになり、前側フレームが外れている。低圧サイトでも、パネル横置き・3段組みアレイの右下にあるパネルのガラスが割れている(図36)(図37)。
(出所:日経BP)
(出所:日経BP)
これら天栄村のサイトでは、基礎架台が部分的に沈下する「不等沈下」も見られた。基礎の沈下は、わずかでかつ均等であれば、大きな問題はないものの、部分的に不均質に起きると架台やパネルが歪む可能性がある(図38)(図39)。
図39●天栄村の高圧連系サイト。不等沈下でアレイに波が…
(出所:日経BP)
また、北海道木古内町と群馬県片品村の低圧サイトでも、数枚にカバーガラスの割れが見られた。前者はパネル縦置き・2段、後者は横置き・4段のアレイだが、割れたのはいずれも最下段のパネルだった。積雪地域の太陽光発電所では、雪荷重に対応したパネルを選定する必要がある。これらのサイトがパネル選定を誤ったとも考えられるが、割れているのは数枚に過ぎないことから、積雪対応のパネルを選定していても損傷してしまった可能性もある(図40)(図41)。
(出所:日経BP)
太陽光発電の雪害で最も軽微なのは、太陽光パネルが外れただけというケースで、天栄村と片品村などのサイトで見られた。これらの地域では、カバーガラスの割れも見られたが、架台から外れたパネルでガラスが割れているケースはない(図42)(図43)。
図42●福島県天栄村の低圧連系サイト。下段パネルが脱落
(出所:日経BP)
(出所:製品評価技術基盤機構=NITE)
一昨年の「令和2年度(2020年4月~2021年3月)」は、記録的な豪雪で、太陽光発電所でも積雪による損傷が目立った。NITEの統計は、それを裏付けており、いまや自然災害の中で、最も多くなっている(関連記事:「令和3年豪雪」が太陽光発電所に残した"爪痕"、雪解けで明らかに)。この冬(2021年12月~2022年3月)も雪が多く、特に令和4年に入ると北日本などで大雪となった。太陽光発電所の雪害を巡るニュースやSNSは多く、今回の記事でその一部を取り上げた。NITEの統計が公表されるのは来年になるが、2年連続で雪害が多くなりそうだ。